講 義: 隕石:多様なものを調べる
 

 隕石という限られた数のものでも、全部集めるといろいろ多様なものがあることがわかります。そして、その隕石をくわしく調べることによって、いろいろなことを知ることができます。ここでは、隕石から読み取られた(太陽系・地球に起こった)いくつかの事件を紹介します。ちっぽけな隕石がどんなことを物語ってくれるのでしょうか。



▼3 隕石からさぐる太陽系の歴史
1 隕石は太陽系とともにできた
 隕石のできた年代を調べていくと面白いことがわかってきました。
 年代を決める方法は、放射性同位体という成分を利用するのですが、ここでは説明しません。
 隕石の年代からまず、最初にわかったことは、石質隕石のコンドライトという種類の隕石が、どれもすべて45.6億年前にできたということです。これは、太陽系のものの中では、もっとも古い年代でした。いいかえると、太陽系でいちばん最初にできたものともいえます。あるいは、太陽系の形成とともにできたともいえます。ですから、太陽系の天体をつくるものは、もちろん地球も、隕石のできた年代より新しいものからできています。

2 隕石の成分は太陽と同じ
 石質隕石のコンドライトの中に、炭素質コンドライトとよばれる種類の隕石があります。炭素質コンドライトは、すべての隕石のうち、約4パーセントしか発見されていないめずらしいタイプです。
 しかし、この炭素質コンドライトは、太陽系の起源を知るうえで、重要なものとなっています。この隕石にふくまれている全ての元素について、その濃度が調べられています。その結果をみますと、炭素質コンドライトの化学組成が、太陽のものと非常によく似ていることがわかったのです。つまり、太陽と隕石は同じ成分からできているのです。

 炭素質コンドライトも、他の隕石と同ように45.6億年前にできました。また、太陽とよく似た化学成分からできていることがわかりました。これらのことから、炭素質コンドライトは、太陽の「カケラ」、あるいは太陽をつくった材料の「化石」といえます。そして、太陽系の天体の材料でもあるのです。
 もちろん、地球も炭素質コンドライトのようなものからできたことになります。炭素質コンドライトは、水(H2O)や二酸化炭素(CO2)、炭素(C)などの気体になりやすい成分を、多いものでは重量で10パーセント以上ふくんでいます。このような成分が、地球の大気や海洋になったと考えられます。成分のうえでは、生命も同じ材料からできています。
 炭素質コンドライトは、太陽、惑星、地球、そして私たち人間自身の材料だったと考えられています。

3 隕石から読み取れる事件
 コンドライトに分類される隕石の中には、さまざまな種類のコンドリュールがふくまれています。そのコンドリュールも、いく種類かの鉱物からできいます。それぞれの鉱物のできた年代を決めていくと、隕石の中に記録されたいろいろな事件を読み取ることができます。
 隕石の年代測定は、小さなのコンドリュールをつくる鉱物にふくまれている非常に少ない成分を測ることになります。ですから、その測定技術は非常に精密(せいみつ)なものでなければなりません。
 事件を見わけるためには、隕石のどの部分を測定するか、またどのような成分(同位体組成)を測定するを、選ばなければなりません。そして、欲しい年代が得られるほどの測定の技術が必要です。もし、これらの条件がそろえば、さまざまな事件が見えてくるはずです。
 そのような測定ができるのは、限られた研究室でだけです。でも、そんな測定によって決められた年代から、隕石ができたころのいくつも事件が読み取られるようになりました。
 その事件とは、
・T1:太陽系外成分の形成(宇宙空間に3億〜20億年間)
・T2:核(原子核のこと)合成の終わり(数百万年間)
・T3:高温凝縮固体(CAI)の形成(45.66+0.2/-0.1億年前、数百万年間)
・T4:コンドリュールの形成
・T5:基質(マトリックス)の形成(3000万年間)
・T6:母天体の形成(45.63〜45.04億年前、300〜600万年間)
・T7:母天体の火成作用(45.58億年前)、変成作用(〜43.66億年前)および化学的分離(45.578億年前)
・T8:母天体同士の衝突
・T9:母天体からの離脱(14億、9億、6億、4億、2億、1億年前以内)
・T10:地球への落下
などが読み取られています。
 これについて、説明をはぶきますが、これらの事件を、覚えて欲しい訳ではなく、ある隕石という石ころから、こんなにも多くのことが読み取られているということを知ってほしいのです。
 隕石に起こった事件で、年代がわかっているものは入れてあります。でも、すべての事件の年代が正確にわかっているわけではありませんし、一回の事件ではなく、何度も起こった事件もあります。でも、こんなにも多くの事件が知ることができるのです。そして、これらの事件で重要なことは、T2からT6までの事件が、短い時間でできたことがわかってきました。それも、5000万年以下という非常に短い時間なのです。
 太陽系は、別の太陽の超新星爆発によってばらまかれた成分が、おもな材料となっています。その超新星爆発のときに、T2の核合成がおこり、そして、それは数百万年ほどの短い時間に起こってしまったのです。
 ここで、数千万年や数百万年が短いといういいかたをしましたが、人間の時間からすると非常に長いものです。でも、地球や宇宙に流れる時間からすると、短い時間なのです。天体がなくなったり、元素があつまって大きな天体になったりするのには、数百万年というのは、非常に短いのです。
 宇宙において、天体の誕生とは、たいへん特別なことになるのです。そして、それはすごいスピードで起こる珍しい事件なのです。

4 隕石が教えてくれること
1 ほかの星の成分もあった:プレソーラーグレイン
 太陽系は、宇宙空間にあったものが集まってできたものである。その材料の多くは、ある星の超新星爆発によってもたらされたものです。もちろん周辺にあったそれ以外の材料もいっしょにつかわれたはずですが。しかし、そのような材料は、元素のレベルできれいに混ぜられて、化学的にならされて、太陽系独自の成分となっています。つまり、太陽系独自にブレンドされた成分なっています。
 しかし、その中に、少しだけですが、もとの姿のまま、「火の通っていない」材料が発見されたのです。それが、プレソーラグレインとよばれるものです。プレソーラグレインとは、太陽系の誕生より前(プレソーラ)にあった粒(グレイン)もののことです。
 隕石の中に風がわりな成分が混ざっていることは、1960年代から知られていた。その風がわりなものが分離され、分析されたのは、1990年代のことでした。
 現在まで発見されているプレソーラグレインは、次の鉱物です。
・炭化珪素(シリコンカーバイト、SiC)
ダイヤモンド(Diamond、C)
グラファイト(Graphite、C)
・コランダム(Al2O3)や
・炭化チタン(TiC)
です。
 プレソーラグレインは炭素質コンドライトの基質(マトリックス)の部分から発見されました。一つ一つの鉱物は、たいへん小さく、数ミクロンメートル(100万分の1メートル)から数ナノメートル(10億分の1メートル)くらいの直径しかありません。
 プレソーラグレインの異常は、いくつかの元素の成分(同位体組成)で発見されました。最初は、酸素(O)やキセノン(Xe)など異常が見つかっていたが、今では、ネオン(Ne)、炭素(C)、窒素(N)、けい素(Si)などでも異常が見つかっています。
 「火の通っていない」プレソーラグレインから、どのようなところよりその成分がきたか(由来(ゆらい))をさぐることができます。
 炭化珪素には、成分の違うものが4種類ほどふくまれていました。それは、死にかけの星(漸近巨星分枝星とよばれるもの)、超新星、あとは正体がまだわかっていない別の起源の星でできたと考えられています。
 ダイアモンドは、べつの超新星、グラファイトは、特殊な星(漸近巨星分枝星、Wolf-Rayet星とよばれるもの)や新星でできたと考えられています。

2 隕石はどこから飛んで来たか:隕石のふるさと
 宇宙塵や隕石がどこから来たかをさぐる方法は、それほどむずかしいことではありません。
 落ちてくる隕石を2つ以上の地点から、正確に観測することができれば、隕石がどこから来たかが計算で求めることがきます。ところが、隕石で軌道が正確に求められているのは、わずか5個しかない。
 なぜでしょか。それは、いつ、どこに落ちてくるかわからない隕石を同時に2ヶ所以上で正確に観測することが、たいへんむつかしいからです。今まで多数の隕石の落下が目撃されていますが、隕石の軌道が求められているのは、次の5個しかないのです。
ロスト・シティ(Lost City、H5)
プリバム(Pribram、H5)
イニスフリー(Innisfree、LL5)
ダージャラ(Dhajala、H3-4)
ピークスキル(Peekskill、H6)
です。カッコ中には隕石の分類もいれてあります。

 このうち最後のピークスキルは、1992年にアメリカ合衆国のニューヨークに落ちたものです。この隕石は、都会に、夕方に落ちてきたものなので、多くの目撃者がいました。ビデオでとらえた人が少なくとも14人もいたそうです。大リーグのスタジアムでビデオをとっているとき隕石の落下にきづいて、録画した人もいます。このような豊富なデータからピークスキルの軌道は求められました。
 5つの隕石をみていく、あたりまえのことですが、地球の軌道面を横切る軌道を持っています。いちばん太陽に近づくところ(近日点)は、地球より内側(< 1 AU)にあるといいます)。いちばん太陽から遠いところ(遠日点)は、小惑星帯を横切るものです。
 このような隕石の軌道から、いずれの隕石も、小惑星帯から飛んできたと考えてよいことになります。つまり、隕石は、小惑星帯がふるさとであることがわかったのです。
 あるとき、小惑星帯の中にたくさんある小惑星がぶつかったり、ニアミスをして、軌道が変わったのです。そのうちいくつかは、太陽にひっぱられて、地球を横切るような軌道になったのです。それらが、長い時間ののち、地球にぶつかったのです。
 地球の軌道と交わる小惑星は、いくつもみつかっています。それが大きなものだと、地球に大きな被害をあたえるはずです。いまのとこと、地球にぶつかるものや接近するものは、みつかっていません。ただし、軌道が確認されているのは、遠くからも見つけることのできる大きた天体だけです。たくさんある小さいものは、みえなので軌道もわかりません。ですから隕石がいつどこに落ちてくるかわからないのです。

3 太陽系の起源が探れる

 地球上には、たくさんのクレーターが見つかっています。地球のクレーターは、比較的新しい時代にできたものです。なぜなら、古いクレーターは、風や雨や川にけずられたり、造山運動などの地球の営みによって消されてしまっているからです。さらに、地球には、陸地が地表の3分の1しかありません。また、陸地も南極大陸やグリーンランドのように氷に覆われるところもあります。ですから、現在見ている陸地のクレータは、地球全体の3分の1以下しかないのです。でも、クレータがたくさんみつかっているのです。
 このように考えていくと、地球ができて今まで、無数のクレーターができたはずです。しかし、地球の営みによって、昔のクレータのでこぼこが消されて、今のおだやかな地表となったのです。

 地球とは対照(たいしょう)的に、月の表面には、たくさんのクレーターがあります。月をよく見ますと、クレーターの多い部分と少ない部分があります。クレーターの多い所は、高地とよばれ、白い岩石(斜長石)でできており、少ない所は、海とよばれ、黒い岩石(玄武岩)でできています。アポロが月の各地の石を持って帰って調べたことにより、月の高地は、海より古い時代にできたものであることがわかってきました。
 以上のことから考えると、月では、古い時代ほど、クレーターが多いことがわかります。
 さらに、月の岩石の形成年代とクレーターの数にはある関係があるとがわかってきました。時間がたつにつれて、クレーターのできる数はぐんぐん(指数関数的に)減っていきます。ですから、最近では、クレーターの数は非常に少なくなっています。
 月の古い大地(高地)は、もとの地形がほとんど残っていないほどクレーターにおおわれています。クレーターは、月の誕生のころに、たくさんの隕石が激しく衝突したことをしめしています。
 月は地球の衛星ですから、隕石の衝突は、地球でも同じようにおこったはずです。
 また、天体観測で、固い表面をもつ天体、水星、金星、火星、あるは木星や土星の多数の衛星、そしてハレー彗星のような彗星にも、クレーターがみつかっています。つまり、太陽系のすべての天体には、昔、隕石の衝突があったことになります。それも、昔ほどはげしい衝突があったのです。
 これは時間をさかのぼると、すべての天体は、隕石の衝突でだんだん大きくなってきたことを意味します。小さな隕石が集まり天体となったのです。その小さい天体が、隕石の母天体あるいは微惑星とよばれるものです。
 その隕石が、太陽と化学組成が似ている炭素質コンドライトのようなものであれば、この一種類だけで、太陽から地球まで、つくることができます。これが、隕石から読みとれることです。

4 教訓
 小さな隕石というものから、ここでみてきたように、実にさまざまなことが読みとられています。量や種類、数からいえば、隕石は、地球や惑星をつくるものと比べれば、ほんの少しにしかすぎません。しかし、隕石の個性と、重要性を見つけることによって、さまざまなことがわかってきたのです。
 つまり、ものごとは、大きさや、量、数ではないのです。それをどこまで重要だと考え、そして、なにを調べるかというほうが大切なのです。そのためには、ぜひ知りたいという気持ちが、それは執念(しゅうねん)ともいうべきものかもしれませんが、必要です。そんな気持ちがなければ、上でのべたようなことはわからなかったにちがいありません。

教訓 執念にまさる道具はない